ノ−リツ鋼機の
　　　　　工場見学に行って
　
　昨年十一月二十九日、東証ペンクラブのメンバ−総勢二十九名で紀州和歌山市内のノ−リツ
鋼機の工場見学に行ってきた。

　和歌山の駅からしばらくバスに乗ると突然山の頂上に大きなビルが見えてきた。それがノ−リツ
鋼機である。

　一際目立つ殿堂、ノ−リツ鋼機の本拠地は面積約二十一万坪強の敷地にこの十二階建ての本
社ビルを有し別棟、開発センタ−、研修棟、工場棟、体育館、独身寮、その他、総合グランド、
プ−ル、テニスコ−ト、そしてゴルフのアブロ−チやバンカ−ショットが出来るグリ−ンを備
えた練習場、更にはヘリポ−トまでが広大な敷地内に設備されその規模の大きさにはまず驚か
された。

　本社敷地のゲ−ト入口からの構内道路の左右の植え込みには所狭しと銘石が配置され、しっ
かりと手入れが行き届いた樹木は盆栽型に刈り込まれ、まるで別世界に入り込んだ感であった。

　見事なまでの純日本式庭園の粋を極めた不等変三角形天・地・人の基本を取り入れた添景物によ
って素晴らしい演出光景が写し出されていた。

　庭園道路を通過し坂道を上りきった所でやっと本社玄関前に到着したところで歓迎の出迎えを受
け、当社のテクノロジ−、大発展の本命、写真の世界的普及を裾野から広げたメインのミニラボの
スピ−ド写真を全員に帰りまでに配るための記念写真の撮影をした。

　そして一歩玄関をくぐるや我が目を見開き、ここはどこだと錯覚感に襲われてしまった。

　目の前に広がる光景は超一流ホテル顔負けの素晴らしい庭園がロビ−を突き抜けた奥の真正面の
広大な一枚ガラス越しに映し出され、ゴウゴウと流れる滝、その両側に配された大岩石には主木・
副木・添木が山水庭園一面をすっきり覆い包み込んでいた。

　吹き抜けのロビ−は燦然と輝くシャンデリヤと靴がくい込む感じの分厚いジュ−タン、流石に大
幅増収増益、絶好調、計画を大きく上回るウレシイ誤算の悲鳴をあげたミニラボブ−ムの追風を受
けて飛躍発展を続ける優良企業の貫禄充分の顔を見た思いであった。

　工場見学を前に案内されたコンベンションル−ムでの総合説明会では予備知識を遥かに上回る経
営理念を以て現在の世界に通用する会社になったかを知り驚嘆の一言につきた。

　その発想は一味も二味も写真家のニ−ズを憎い程捕らえ製品化に成功させ販売力を深め収益を上
げている事だ。

　その一例としてアマチァ写真家がスナップ写真を撮るといち早く見たいと思うのが常である。そ
れならその願望を実現させる為の機械を造ろうと考え完成されたのがミニラボである。

　一枚の写真に込められた想い、願い、優しさ、そして愛、写真が創り出す夢と真実を正確により
早く世界中の人々に届けたい。この願いを抱いて夢の実現に向けてスタ−トしたのだ。

　世界百四十ケ国以上に販売戦略拠点を持ち画期的な高効率一貫生産ラインを形成し高品質、高性
能、高技術を駆使し、更に発展させるには社員の資質の向上と技術力の養成、そして国際企業人の
育成には人の教育にあると質の高い専門教育にも力を入れ合理的な組織の充実を計っている。

　昭和二十六年、街のどこにもあった写真屋さんが当時はまだ電気の供給が不安定であった為、そ
の対応策として印画紙の水洗い工程に着目し停電の時でも作業が出来るようにと水車の原理を応用
し「自動印画水洗い機」を造った所、写真館やカメラ店で大好評を得て当時ではびっくりする一気
に一万台もの注文が入り産声を上げたのが当社の始まりであった。

　その後、自動現像機を始め相次いで新製品を開発、昭和五十四年、世界に羽ばたくミニボラ「Ｑ
ＳＳシリ−ズ」の進化、写真処理機の高性能化を推進し世界のトップブランドの位置を不動のもの
にした。

　この「ミニボラ」とは写真フイルム現像からカラ−プリント仕上げまで僅か四十五分で仕上げる
写真処理機器で請求書も同時に出てくるもので当時、無名の会社にそんな素晴らしい機械が出来る
筈がないと誰にも相手にされなかった。しかし西本社長は「必ず殺到する程売れる」との確信強く
「一番人目の付く所にミニボラを設置し目の前で写真が出てくるのをお客に見せる」と世界の観光
客が一番集まるナイアガラの滝前でミニボラを使い［Ｏｎｅ　Ｈｏｕｒ　Ｐｈｏｔｏ］（一時間写
真）の大看板を掲げた所、狙いは見事的中。

　ワンダフルと集まる人の中、カメラ専門家よりも手持ち資金を有利に運用をしたいと考えていた
麻酔医の先生と妻のデザイナ−夫人が強い関心を示し即決導入を申し込んできた。
　西本社長は「買い物をしてお茶を飲んでいる間に写真が出来るのだから人気沸騰間違い無し」と
太鼓版を押し買い物客の多いショッピングセンタ−が狙い目とアドバイスした。

　夫妻は助言通り十店舗を開店し短期間で莫大の利益を上げた。

　オ−ストリアの写真機材シヨ−では振り袖姿の美女を使い晴れ着姿の女性でも容易に出来る操作
をアピ−ルした。

　ラスベガスからは一気に二百余台の大量受注がいっぺんに入り、生産体制の整備も完備させた。

　この直後からアメリカのマスコミが競って報道しニュ−ヨ−ク・タイムスでは麻酔医夫妻の大成
功を「サクセス・スト−リ−」と写真入りで紹介し人気は爆発、四日間で五百台と驚異的な受注も
記録した。

　ここまでくると人気は止どまることなく広がり、世界中にその評判は広がり受注は更に増大し、ノ
−リツブランドを不動のものにした。

　勿論、現在もニ−ズに合ったパノラマ混在フイルムの連続プリント機の実現や、大型プリント機
のハイテク化、マルチメディア関連商品の開発など、次々にヒット商品を出し、普及拡大の可能性
を秘めた国への進出、挑戦に力を入れ、飛躍、発展、爆進中である。

　将来の夢を形に変え顧客に喜んで戴き、儲けてもらえる商品づくりに傾注している姿をこの目で
見てきた。

　昨年二月、大阪二部市場上場、現在、従業員数一千三百二十八人、本社地区の所有土地は面積二
十一万坪強、本社地区以外にも工場、研修センタ−、多目的ホ−ル、その他各営業所等々の保有資
産の合計は八百三十三億強、売上五百億突破も真近。資本金七十億強の会社に変身。

　この創始者、現社長、西本貫一氏は平成二年世界の写真業界に顕著な功績があった人に贈られる
写真業界最高の栄誉「ＰＭＡ殿堂入り」に選出され、又「勲三等瑞宝章」も授章し、その世界的な
技術を次々と開発し、写真の普及にいかに貢献したかが証明され、アメリカのロチェスタ−大学経
営学大学院からは名誉博士号も授与されている。

　バブル崩壊以来、不況風に吹かれ厭な事ばかりに直面し、そして見せ付けられてきた筆者はこの
工場見学で何か希望が涌いてきた感じを受け、その夜、白浜温泉に浸かり翌日、帰路についた。

　　　　　（ナショナル証券　投資営業部）　　　　　（東京証券外務員協会　理　事）

ノ−リツ鋼機　工場見学記

平成９年度 東証ペンクラブ誌 掲載