◆今日からは明治・大正・昭和の相場の魅力に取り憑かれた 相場師 の話をさせて戴きます。 何時の世も相場は魔物と云われ、七変化を繰り返し、歴史を刻んでいる。 彼らの生々しい機略の計算に息づく人間像は一般の投資家の粋を越えドラマが展開され、其の陰に巨大な経済の重圧が立ち塞ぎ、立ち向かう縮図が潜んでいたのだ。

◆彼達の演じた舞台は取引所に凝集されていたが、此の取引所の起源は実に徳川時代から発した米穀取引所に始まっている。 当時の経済の中心は大阪の北浜・堂島が相場師の活躍舞台 だった。 相場の 「相」 は姿態を示し、相場の 「場」 は空間なのだ。 「相」 と 「場」 が重なり摩訶不思議な相場の世界が脈動し、ドラマと成り，相場師の姿が浮かびあがって来て、其の脈動の中には何時も恐怖に取り憑かれた貪欲な人間像が浮かびあがって来る。 然し、此れからお話しする相場師は一切の執着、概念を捨てて　 “酒の肴” 　程度のお話しと思ってお読み下さい。

◆一番手は “汚く儲けて奇麗に使え” を実践した相場師、 島　徳蔵 の話しです。 明治・大正・昭和の三代にわたって生き抜いた機智縦横にして勇往邁進の相場師のお話です。 島徳さんの性格は大胆にして政界政党関係者と太いバイプを持ち、彼らと結託して相場を張り大儲けした人物なのです。 云わばインサイダ−の元祖かも知れません。 関西人独特のドライな商売根性は他人の批判や攻撃にも “知らぬトンべイ” 　“屁の河童” 遊びもアクの強さも芯の太さも神経の図太さも、ピカ一、典型的な北浜育ちの関西人だった。

◆父親は “お辞儀の徳さん” と云われた堂島の仲買人で、電信柱にも頭を下げると云われた人格円満な人柄で性格は親子雲泥の差、月とスッポンの違いだった。 明治末期になると島徳は、野村徳七・梅原亀七・高倉藤平等と肩をならべる程に頭角を顕し大正時代に入ると岩本栄之助・野村徳七・島　徳蔵の三勇士と云われ出し飛ぶ鳥を落とす勢いで金を儲けていた。

◆島徳の大儲け第一弾は、第一次世界大戦真っ最中の　「東株」　と　「日本染料」　等の増資新株の権利取りとサヤ取り、そしてインサイダ−を含めての荒稼ぎは物凄かった。　情報をくれた政治家関係者と連日料亭では奇麗どころを侍らかし豪遊の宴に興じ札束をバラ撒いて居た。 　政治手腕と金の力 で大正５年に大阪株式取引所の６代目の理事長に就任し、資本金を６倍半にさせたり、短期の清算取引市場を開設させる一方　「シャントリ」 　と呼ばれた上海取引所設立の利権 を手に入れ、株価操作で巨万の富みをかき集めたのだ。　現在、此の行為は重大犯罪ですが当時は特権でも有ったのです。

◆其の株価操縦の手口は実に汚く仲間を騙し、裏切っての金儲け だった。　曾ての仲間に　　“テントリを買いなはれ！　浮動玉も少ないしチョツト買い煽れば棒上げや”　と静藤治郎と云う男の耳元で囁き、島徳を信じた静藤は即座に株集めの買いを入れていた。　テントリとは天津取引所株の事です。　此のとき既に島徳は大量にテントリ株を持っていて、そして静藤が煽り値を騰げた所を、わからぬ様に売り逃げて居たのだ。　静藤はゴッソリとテントリ株買ってしまい泥沼に嵌まり苦境に陥ってしまった。　 仲間を裏切り騙して売り逃げた島徳 は、此処でも大儲けし晩年は悠々自適の生涯を過ごしたのです。

◆一方、テントリ株をゴッソリり持ってしまった静藤も偉かったのです。　浮動株のほとんどをかき集め、苦境の静藤が潰れると噂を自ら故意に流し、嘗めてかかったチョ−チン筋の売り込みを誘い、逆日歩責めに発展させる戦法に出て、売り方を締め上げ、解け合い事件に発展させ 、彼も大儲けをしたのだ。　株の世界、相場の世界の不思議と非情な世界、戦略に蠢く相場師の裏側の一面だがいかがですか。



　　爺は皆様に考えて戴き儲けて貰う。其の為、此のメッセ−ジを送り続けているのです。　

島　徳蔵