◆昨日は　“仲間を裏切り汚い金儲けした相場師”　のお話しでしたが、今日は打って変わ って正義の相場師  岩本栄之助  の話です。

江戸っ子は 「宵越しの金は持たない」 と強がりを誇り、関西商人の事を 「贅六野郎」　とか　「才六野郎」　 と今でも嫌う人がお りますが、贅六とは　「禄・閥・引・学・太刀・身分」　の事で、才六は「機敏・忍耐・工夫・利発　・発明・要慎」の事です。　見栄っ張りの商売下手な江戸っ子には一種の僻み、あざけ言葉で、関西人を　“テメ−達”　と云う時代が有ったのです。　其れ程上方商人の商売が上手で優れていた事の証明言葉でも有るのです。　上方商人は実に天衣無縫 にして、信用と商才を資本として、過去一切の社会的因習に拘らない商人根性を発揮する人が多いと云うことなのです。　　　　   　　

◆岩本栄之助の父親は和歌山県生まれの大阪育ち、二十歳で両替商から北浜の株式仲買人に転業し、活躍していた人ですが、人望も厚く人格高潔にして、人を陥れるような人道外れな事は絶対にしなかった人で常に礼儀作法言葉使いまで神経を使い、子供の栄之助に対する教育は厳しく仕付け育てただけに、栄之助も典型的な上方商
人の子ととして育ち、商業学校に通う一方、相場の味を覚え、広い世界を見つめ、外語学校に通って語学を学んでいたのです。　徴兵検査では甲種合格、第四種団に志願兵として入隊し、陸軍少尉・副官・中尉に任官され、児玉大将の軍人魂の気骨精神が強く栄之助の生活信条になったのです。

◆３０歳で父親の株式仲買人を継承した栄之助は、当時の株式市場は講和条約を不満とする暴動もおさまり、産業界は新天地が開かれると人気爆発、天井知らずの株成り金が続出する程の大暴騰相場が展開されていた時期で連動買いの腹は決めたが、冷静沈着且つ慎重な栄之助は、日本を代表する一流株に限定し、銘柄数を厳選絞り込み遊び心の戦法・戦略を取って、行き過ぎた急騰相場に警鐘を鳴らし初めて居たのです。

◆翌年の明治４０年、日露戦争がもたらした株成り金ブ−ムの反動が来たのです。　経済　恐慌が株式市場を襲って来たのです。　此の時、冷静着且つ慎重に対処していた栄之助は、人より一歩先を読んでいてだけに間髪いれず一斉に売りに出たのです。　調子に乗って居た株成り金達は　アッ！と云う間に儲けを素っ飛ばしただけでなく、釣瓶落としの暴落相場は泥沼にはまり込みバニックが起き、銀行取り付け、支払い停止、内閣総辞職に発展し、証券取引所も立ち会い停止の処置になり 解け合い騒動 が起きたのです。

◆品性高潔にして気前良く、体面意識を重んじていた栄之助は野村徳七の調停案を受け入れ、北浜の為、取引所の為、財を失なった投資家の為と解け合いに応じ、勝負に勝って名誉も手にしたのです。　大正３年、サラエボ事件が導火線となって第一次世界大戦が勃発した時には相場は一挙に急騰し始めたのです。　今度は　「戦争は買いや−」　と栄之助は買い出しました。　思惑は見事に外れ大暴落になってしまったのです。　北浜も兜町も恐怖状態から投げ物殺到の惨状は、相場の世界の非情なまでの現実主義は誰も止める事は出来ないのです。　当然今度は大ピンチに陥ってしまったのです。

然し、４０年、内閣総辞職から取引所の立ち会い停止になった時、野村徳七の懇談を受け入れ徳七を救った恩を忘れず、今度は徳七が栄之助の 玉の肩代わり で窮地を救ったのです。　栄之助の相場の張り方は、己の欲得で相場を張ると云うより、余りにも奇麗すぎた正統派の相場師で父親の死去で巨額な個人遺産１００万円を手にした時も、父親の遺訓と追善供養の意味を含めて大阪市に中の島公会堂建設資金として其の１００万円をポンと寄付し、今尚、玄関前には名前を残しているのです。

◆現在換算価値を考えると、日銀調査統計局調べを参照して見たら、明治元年の１円は昭和５７年には実に  5967,46倍  になってますので大変な額だった訳です。　栄之助の最後は、義理と人情からの空売り相場で曲がり出し、大正５年、軍隊用の拳銃でこめかみをぶち抜き、自殺を遂げたのでが、一年後にはドイツの講和条約から相場は大暴落に転じ、もう少し辛抱すれば大儲けに転じた事を思うと　 「投機相場の怖さと皮肉な世界」　のドラマで、相場師の末路の厳しさを感じる所で御座います。
　


　　■　爺は皆様に考えて戴き儲けて貰う。其の為、此のメッセ−ジを送り続けているのです。

　
　

岩本栄之助