今日も引き続き先達相場師の話しを続けさせて戴きます。　　　

◆明治の買占め王  高倉藤平 の話しです。大阪岸和田生まれの激しい負けん気の強い横太りの肥満体、頭が大きく背が低い所は、毛布とタマネギの産地、山車を曳いて豪快に町中を突っ走る喧嘩祭り出身だからかも知れません。この藤平の不幸の始まりは一昨日お話した正義派 悲劇の主人公 として名を残した 岩本栄之助 に対するライバルから始まり、北浜では 奇人・変人 と云われた狡猾男です。高倉は会社ゴロを使い巧みに人を操り、利用する智才に長け、大阪財界の切れ者として、多くの会社役員にも関係していた野心家で仲間からは意外に期待されいた不思議な性格の持ち主でした。

◆若き頃に株で金儲けの味を覚え、お定まりの大損をして堂島を離れ、中国・四国方面に脱出して生活をして居た時期が有ったようですが、 株の魅力忘れ難く 、知人の援助応援を得て堂島に戻り仲買人となり、明治33年に北浜株式仲買店を開業したのです。再起第一弾は 「堂島株」 の買い占めでした。一年間、密かに買い漁り、嗅ぎつき騒ぎ出され表面化するや一気に本格的に買い増しを続け、堂島株の「仕手戦」に発展させ、買占め劇のスタ−トを切ったのです。当時は、深刻な経済恐慌の最中で、全国各地の銀行の支払い停止や、取り付け騒ぎが起こり、萎縮沈滞ム−ドは町中に染　み渡り、勤儉節約奨励とばかりに不景気風が襲っていた時の株価大暴騰だけに、大騒ぎになったのです。

◆昨日お話しした岩本は売り方、高倉藤平は買い方と、真っ向からの挑戦、勝負の火花が乱れ飛び、正統派の栄之助より、野望に燃えた千軍万馬の怖い物なしの野心家相場師、高倉藤平の相場の張り方の方が、一枚上で陰の人物達も優れ、敵なしだったのです。立会い開始とともに  ゲキタクの振り手は弾み 、場内の空気は緊張の中にも凄 い勢いで盛り上がり、値をボンボンと吊り上げて行ったのです。売り方も意地なら買い方も意地の張り合い相場、材料は二の次、 鎧・兜 に身を固めた仕手戦は、双方まさに  一世一代の大勝負勝  に出たのです。

◆此の時の資金は両者共、天野・大矢の高利貸しからの資金融通を受けての戦いでもあったので、有る意味では  高利貸しに利用され踊らされていた相場 だったのかも知れません。軍パイは高倉藤平に挙がり、此処に高倉の野望を秘めて居た 「堂島株」の買い占め劇は完結し、待望の「米穀取引所」 の理事長の椅子を仕留めたのです。さぞかし念願の椅子を勝ち取った高倉は痛快心の笑みと雲上で胸を張る孫悟空の気分 に浸った筈です。負けた岩本栄之助は、堂島売りで莫大な借金をつくり、まもなくピストル自殺を図ってしまったのです。勝った高倉は勢いに乗って、今度は、欲呆けした西本願寺の大谷光瑞門主上人が「手相」を信じ相場に手を出し「京都電鉄株」の株集めに乗り出した事を聞き「世間知らずの坊主相手に勝ち目あり」と売り方に廻り、株価を叩き潰し大儲けしたのです。負けた大谷本願寺では 疑獄事件 が発覚し、光瑞坊主は国外流浪の旅に出されてしまったのです。

◆大正ブ−ム時は凄まじい 黄金の洪水 が日本中を襲っていたのです。事業計画・設備投資は朝陽が上る勢いを見て、高倉は次ぎの乗っ取り計画「日本郵船」に絞りました。　そして此の時、鐘紡の大株主、三井に次ぐ実力相場師、福政将軍と手を組み野望の炎を燃やし連合軍を結成し、株集めを開始したのです。福政将軍は、羽織り袴の正月衣装で祇園の芸妓は舞子姿のまま、一緒に風呂に入って話題を撒いた男です。

此の時、高倉は世界の日本郵船の社長の椅子を狙ったのです。欲望の海は広く山は高いが「海を泳ぎ山を登る賭けは痛快」とばかりに動き出し、株主総会では社長を追い出す為、 俄株主300人  髭面のバンカラ男を連れて乗り込み、社長派も負け地と  炭鉱夫３００人を集めて開かれた株主総会の会場は一発即発の乱闘騒ぎを起こす剣幕となり、仲裁に入った 山県公 の顔を立て高倉側が手を引き、 引け際の良き相場師 としての名声は今尚歴史に名を残しているのです。大正６年、４３才の男ざかりの高倉は、其の後、相場師としての心労が重なり俄か腸ネンテン で悶え苦しみ死亡したのです。狡賢い強欲相場は謹むべし。恐れるべしです。



　■　爺は皆様に考えて戴き儲けて貰う。其の為、此のメッセ−ジを送り続けているのです。

高倉　籐平