波乱万丈激動渦巻く兜町の歴史を綴る武将達 第 四 部
都内に別宅二軒
昭和６３年(1988)バブルの絶頂期＝兜町から永代橋付近は一代金融街になるぞ==噂は巷に飛び交い真実味を帯びていた。土地は一坪一億円の声を聞いた事が有った。バブルの波に乗った連中からは『株・土地・ゴルフの会員権などを持たない奴は人生落ちこぼれだ==』なんて荒い鼻息が兜町を覆った。
台湾生まれの東大経済学部卒の評論家だか何だか知らない 『邱永漢』 と言う男も雑誌に 『借金してでも土地と株を買え==』 と、ほざいていた。
小生もあんにもれず鼻息高く、お世話に成った方々に恩返しのまね事でもさせて戴こうと考え、地上げで転げ込んだ余禄資金と、手持ち株の値上がり利益金があつた時なので、ふと新聞の折り込み広告チラシで足立区北千住の花火大会会場（荒川一級河川敷）のすぐ側の総桧造りの一戸建土地家屋の売り物に目が留まり、値上がり期待と間違えても将来の隠居所にすれば良いと、欲の皮を半分つっぱらせながら、株を買うみたいに、値切りもせずチラシ価額でポンと即日現金で購入し長男に贈与した。既に台東区入谷の三階建ての本拠地家屋と、隣接した未相続の家屋が存在し、生活環境は満ち足りていたので将来ある種の節税対策金と考えたのだ。
小生の人生振り返って見ると誠にラッキーの連続であった。昭和二十六年に餓鬼大将が兜町に飛び込み、多くの方々に支えられお世話を戴き、やりたい放題の事をやらせて貰い、然も、経済面に於いても取ったり取られたりしながら、自在を得ていた小生は、此処でも調子に乗り続けざまにもう一軒、更に駅に近い閑静な場所の一戸建も購入し、今度は次男に贈与した。こちらは台東病院の婦長さんの一人住まいの邸宅で、お家の事情から手放すとの話で話を聞いた翌日には現金を渡し権利書を頂戴した。
北千住は下町情緒あふれる宿場町でモダンな商店街が入り交じり将来性のある土地柄なのだ。一級河川の荒川土手では花火大会が開かれたり、すみれ・タンポポ・ツクシンボウが咲き乱れ、遊歩道・遊覧船の発着所がある都会のオアシス街、然も戦前は親父の出店があった所でもある。早速、数寄屋造りの名人棟梁に純日本式家屋の改造を依頼し、庭園は安行の造園造りの名人、大熊造園の親方には樹木の植え込みを頼み、二軒とも新築同様に贅を尽くし改造し、茶道家の師匠のお手前でお世話になった諸先輩たちを招きお披露目の茶会を開いた。
兜町は絶好調で株価は軒並みうなぎ昇りに上昇し、株価はとうとう翌年(平成元年)には史上最高値
(三万八千九百十五円八十七銭) (12・29) を付けたのだ。
プロアマゴルフ大会
平成４年、この頃は相場の動向は仕手株崩れから怪しくなってきて経済は落ち込み、政府は立て続けに五回の公定歩合の引き下げを実施し、景気底入れ宣言を何度か発令したが『騙しの底入れ宣言』は株価に反映せず、株価は下落の一途をたどり、日経平均はアッと言う間に一万四千三百〇九円四十一銭（1992・8・18)迄急落してしまった。さながら川底深く潜り出したと言うか、奈落の底に突き落され始めて来たのであ。大手顧客の担保不足の未収金を抱える一方、四百八十万円で購入したゴルフ会員権は一時五千万円の買気配があったが此の頃は十分の一に急落してしまっていた。
既に財テク倒産企業は日を追うごとに表面化し、負債総額の大きい所はすべてゴルフ・不動産・株式投資の御三家が原因だった。証券関係者の自殺や、大手銀行幹部の投資失敗による辞職、財テク倒産等々、本業そっちのけの咎めは、語るも涙の物語が続出し監督官庁（大蔵省）も慌て出してきた。地獄の様は兜町を直撃し、出来高も減少し、証券会社の倒産・合併話までがアチコチで囁かれ、暗雲は深く覆い被さって来た。
架空の事務所を設置し、証券会社を手玉にとった鉄砲詐欺事件(架空の株式大量注文を発注し、不正な手段で吊り上げた株価を狙い撃ちして売り抜け、籠脱け、未決済の行為)
も、悪質な知能犯的行為が相次いで表面化し、被害を被った証券会社は三十〜四十社もあるのではないかといわれていた。
極楽トンボの小生には未だ危機感は無く悪魔がうごめき招いている事にも気付かずノー天気で週末には決まってゴルフ三昧に狂じていた。太平洋クラブ白河羽鳥湖コースの開場記念杯で見事優勝し、太平洋クラブ御殿場コースのプロアマゴルフ大会の出場権資格を獲得した。
平成５年１１月１１日に友人を引き連れ、大勢のギャラリー見守る中、プロゴルファー 『陳志忠』 と一緒にプレーしていた呑気者で全く始末が悪い男だ。 されど仲間に祝福されてのプレー気分は最高であった。
（プロゴルファー丸山茂樹と小生 プロゴルファー 陳志忠 と 小生
ギャラリーが見守る中、名物の１８番ホールでアプローチショットをする小生
カップインしたボールを拾う小生 （太平洋クラブ御殿場コース）
悪魔と怪物が襲う損害
『山高ければ谷深し』株式の格言にあるが人生も此れ又同じ格言が存在する。平成三年九月、此の頃は市場は閑散商い出来高は極度に減少し閑古鳥が鳴いていた。歩合外務員は株の売買高で収入を得る商売で営業成績如何で収入が決まる。こんな時に知人から法人名『羽黒産業』の岩田弘社長を紹介された。 本来個人客しか相手にしない小生だつたが『相手が勝手に売り買いする法人』と悪魔の囁きとも知らず甘い気持ちが先行し多少の商いも欲しく、親しかった担当参与と担当部長に相談し許可を得て所定の手続きを完了し前受けから取引を開始した。(平成三年九月五日顧客登録完了) 初めての注文は『田村電機』の買いだつた。
この頃は日経平均は大暴落から一時反発後のジリ安で、湾岸戦争の終結、米国公定歩合の五回に及ぶ引き下げと証券対策期待から暴落に歯止めがかかり市場回復機運が高まっていた時で『田村電機』は五〜六年余り千八百円から千五百円どころから九月には二千五百二十円の高値、安い時でも千二百円を維持し下値不安は薄く上昇が期待できた。始め現物株を二万・三万と買い出し、二ヶ月間で現物・信用の合計は三十万六千株を買った。
当然受渡しは法令を遵守しきちんと処理し、現物銘柄から新貸借銘柄に昇格（10・16）し、空売りが増加し株不足・逆日歩が付き仕手化しだし出来高も急増、株価も1040円(H3・10・23)
の安値から1940円(翌3・3) と、アッと言う間に 900円幅の大暴騰を演じ大幅利食いとなった。株の魔力は変幻自在に動く摩訶不思議な生き物、
騰がる時も下落の時も必ず理屈は納得した裏付けが出てくるもの。 此の直後から一転俄に株価は789円(4・20)に大暴落に転じてしまった。危険を感じ、翌月1122円迄反騰した時、担当部長同伴で傷の浅いう
ちに手仕舞いを助言したが欲深く反発を期待する客側は爪を伸ばし続けた。
毎日顧客明細資料を取り寄せ管理条項をチェックし、取引注意銘柄 (4年2月16日)に指定されてからは売買注文の発注は入力はストップされ総て売買審査部へ連絡し、注文の内容の許可を得て株式部へ直電（発注）する情況だつた。
当然逐一担当部長に報告をしての発注で一層の注意と警戒心を持っていた。株価は上昇し預かり資産も建ち玉も多額の評価益（一億円以上）を計上し維持率は規定を上回り、新聞雑誌レポ−ト等も同社株の見通しは強気の記事が目立ち賑わい管理情況は万全であった。
最後の買注文は四月一日に執行し、当日、二千万円、翌日、四千三百万円の現金保証金も入金され規定担保を満たしたが、全体的市況が怪しくなると同時に大幅に下げ出し、追証が発生し始めた。以来、四月七日から五月八日までの間、七回に渡り時価で四千三百三十万円強の追加担保の差入れがあり、政府の総合経済対策が事業規模で十兆七千億円の景気回復対策を行なうと発表され明るさが市場に蘇り、信用建玉も上昇し田村電機の株価も五月十二日から猛烈に反騰。安値七百八十円から一気に連続ストップ高を演じ、千二百三十円まで上昇。保証金不足は解消した。
羽黒産業の岩田からは 「面倒を見て戴き感謝する」 と言って来たが 「口先の口実より一つの実行で担保をもっと入れてくれ」 と督促を怠らなかった。 この時、証取法を摘要し約諾書の規定どおり顧客と喧嘩してでも厳しく対処し玉を一方的に切っていれば良かったが 『追証を入れる』 と言っている客の意志に反しての手仕舞いは『後に問題を残すから勝手な対応はしないように』と担当常務からクギをさされチャンスを逃がしてしまった。 売買審査部は既に注意銘柄としてマークしていたなら注文は断るべき所なのにＯＫサインを出していた。会社の対応はトラブルを嫌うあまり常に後手後手の通達で客先の対応はせず担当者を攻めるだけであった。
たった一回、五月十四日付で管理部から 「保証金の追加差し入れに関するお願い」 を羽黒産業に発送しただけだった。その内容は五月二十一日の正午までに追加担保の差入れ請求だった。 客は 「今資金集めをしているからもう少し待ってくれ==」 との管理部長へ直接電話の報告にその後の対応無し。 しかし小生は担当者として追証回収に怠意怠慢の心があってはならずと非常事態を訴え続け請求を重ね直談判を繰り返し、請求し続けていた。その結果、五月十九日から七月十七日までの間に追加代用証券の回収及び建て玉返済で発生した損金を回収し、更に期日が来た分の品受けをさせ、その代金を回収し、株券は代用へ入庫させ改善させた。此処に追証の発生以来、合計十四回、概算金額は八千八百万円強の株券及び現金を提供させた。 しかし異常な株式全面安の市況に歩調を合わせた田村電機はこの頃から再び下げ止まらず、回収してきた担保だけでも維持率不足は解消されず更に請求を強めていった。
そしてその後に来た期日の損金は『しばらく猶予してほしい』と担当部長の所え訪問し嘆願し、事は重大で成瀬本部長、清水監査部長に報告し、「絶対 迷惑を掛けないと言う文書を貰え」 と指示され、下書きを示され岩田に伝え、結果「七月二十一日現在の損金立替え金の確認と七月二十八日の信用期日に伴う建玉を売却するか品受けするかして八月十四日迄でには損金を必ず入金する、その以後の取引に於いても絶対ナショナル証券に迷惑はかけない」との念書を七月二十二日付けで提出させた。
七月二十六日、七月二十八日に続いた期日の損金は念書の毎く入金の約束を信じの連絡を待ったが 「いま資金づくりをしているから約束の日まで今しばらく待ってくれ==」 「資金づくりに北海道に行ってくる」 「信用の期日が来たら品受けをして代金をいれ株券は担保に入れる」 との言い訳で結局八月十四日の約束の日まで引っ張られた。揚げ句の果てに八月十四日、約束の日に電話で 「資金手当が狂ってしまった」 「うまく行かない」 との理由で入金がまにあわないと連絡が入り、担当部長に 『八月十七日にその話で訪問する』 と言って来た。 八月十七日、朝,,ナショナル証券に岩田は約束通り来て担当部長と私に詫びに来た。 この時、成瀬本部長、清水管理部長、吉野担当部長と私の四名で岩田と合い二時間近く種々の話しをし、この時も全員の前で「時間を戴きたい、絶対に迷惑はかけません」と誓っていた。 こちら側では再びその確約の念書を再度、要求をした。翌十八日、再び岩田が来社し吉野部長立会いの中、昨日要求した念書を持参し、この時も「担保を処分し損金に充当し更に不足が出ても絶対迷惑は掛けません。 随時現建玉も品受して行く」（二度目の念書）と言っていたのである。その日の夕方、野口専務に報告に行き専務は「こんな奴（羽黒産業）最初から引っ掛けようと思ってまんがなあ〜・・・
丸さんは甘すぎるんですわ・・・ 」 と叱責され、 山田常務も「絶対、羽黒産業からとらなきゃあかんで・・・
こっちで応援出来る事があったらしますから」 と元気づけてくれた。
野口専務(当時)、 山田常務、後藤常務、成瀬本部長、 吉野部長など大勢の人々を巻き込んでしまった。
兜町生活五十年の中、 人の紹介で受けた注文が相場の下落に遭遇し、客も大欲の咎めとはいえ相場の暴落で全財産を失い、払い切れない損金は既に支払い不能の状態になってしまった。
何度も 「期日が来たらその都度きちんと決済して改善して行く」 「絶対に迷惑を掛けない」 という言葉は既に信用は不可。
女々しく戻り相場の時『法令に沿って玉を切って置けば』と、後悔の念が蘇り、
管理部長・担当常務の 「勝手に売ったらあきまへんで、担当者はあくまでも担保を取る事、損金を回収する事」 と言われた言葉が悔やまれる。 羽黒産業の言い訳は「株価の急激の暴落で資金ぐりの対応が間に合わず困窮しているが絶対に迷惑は掛けない。 早急に資金を作る。担保を準備するから暫時の猶予を与えてくれ・・・==」 「担保不足発生以来、八千万円以上のものは差し出し、改善に努力し一生懸命誠意を見せているではないか」 「近々桁違いのまとまった金が入る」 との空々しい言い訳ばかりが帰えってきた。
八月十九日のダウ一万四千百九十四円四十銭と証券界は絶望的非壮観が充満し危機的水準とまで言われた暴落で、テレビ出演した野村総研のアナリストが「ダウ一万円を割込みただの六千円まで下がるかも知れない==」と発言したのも此の頃。証券界全体が危機的不安感が市場を覆い、大蔵大臣の異例の緊急株価対策の記者会見が行われた程の悪環境になり誰もが資金ぐりに行き詰まって来た時だ。
以来、引き伸ばしに伸ばされ続け、結局、残り建玉の期日が来た順番にその都度処分をし、平成四年九月二八日を最後に信用取引の期日全部の返済を済ませ、預かり代用担保の現物株は十二月一日を最後に総てを羽黒産業と打ち合わせの上、売却し、預かり現金保証金を客勘へ振替えた結果、総額一億二千三百八万四千四百八円の赤字を計上してしまった。まさに悪魔(大暴落)
が襲い来て、 とんでもない真面目に株式の注文を受けていた証券会社やセールスマンに重く被害が覆い被さって来たのだ。以来損金回収の請求はくどく小まめに電話・会社訪問・自宅訪問を重ね請求し続けてきた。
所が不思議に十二月十三日、岩田から「来年二月より百万円以上毎月必ず入金する」と言ってきた時にはびっくりしたり喜んだり半信半疑だが早速、管理部長に報告し、以来油断なく重ねて連絡を取り続けていた。平成五年二月二十五日、岩田から一本の電話が入り「埼玉県川口に引越した。今月は入金出来ないが三月には必ず入れる==」と言って来た。又、騙されるのかと感じたが、先ず担当部長と引越先を確認しようと引越先の確認をして来た。約束の三月五日朝、岩田から電話が入り 「昼過ぎ百万円を持って行くが会社には行きたくない水天宮まで来てくれ、担当部長にも合いたくないから連れて来ないでくれ==」 と言うので管理部長にも報告し 「本来は一緒に行った方が良いのだが感情を逆立てるといけないから一人で行って貰ってきてくれ==」 と領収書を貰い一人で午後二時三十分、百万円を集金して来た。此の時の気分はキツネにつままれた気分ながら 『ホッ==』 としながら会社に入金した。
この時、岩田社長は 「羽黒産業を辞めた」 といきなり言いだしたのには二度びっくりされ、今度は 「駒」 と言う男が社長になつたと言うのである。 これ又おかしな話で面食らったが岩田は「実は早坂と言う人物が株をやっていて私はダミ−だった==此の金は早坂会長からの金==」と言うのである。
散々格好をつけて『買ってくれ==売ってくれ==』と社長気取りの取引はダミーだったと言うのである。 私は詐欺と責めたが、これ以上責め喧嘩をし岩田が逃げ出したら大変と思い、以後、岩田は早坂から金を取って来て入れてくれと言った。この事を管理部長や専務、常務にも報告した所、相手はくせ者、 『下手に動くと返って逆手を取られ大変な事になる==』『慎重に行動するよう==』 と言われ『弁護士にゆだねる』 事になったがあくまでも取引は羽黒の岩田で回収は岩田からすると伝え、念のため三月十九日、羽黒産業の会社を見に行くと『羽黒産業』の看板は既に無く 『ハヤ・エンタ−プライズ』 と言う看板に変わっていた。郵便ポストは従前の羽黒産業のままだったが郵便受けの中を覗くと公共料金の請求書があり契約名は早坂名義だった。 毎月
百万単位で入金する約束は今度は四月二十三日に電話が入り『四月二十八日に百万円を早坂会長が入れると言っているの、又前回と同じ水天宮に来てくれ==』と言うので約束通り水天宮で合い再び百万円を回収した。長期立替え以来合計二百万円の入金だった。
此のころ相前後して、平成五年十二月二十五日付けの読売新聞に 「旧最上興産が倒産負債総額壱千億円、今月二十二日に二回目の不渡り」 と言う記事が掲載された。平成六年四月六日付けの各紙新聞・テレビで 『早坂最上グループ会長、妻の遺骨が盗まれ三百万円恐喝された』 と一斉に報道され、昨年の十一月三十日には自宅の門扉に銃弾四発打ち込まれた事件まで記事に乗っていた。
平成六年四月二十三日の読売新聞には 「神奈川県内の産業廃棄物処分場建設をめぐってトラブルがあった金融業者が射殺される」 と記事が乗り、巷では早坂と深い関係があるとささやかれていた。週刊文春』四月二十八日号には『モガミの名馬たちはどうなる？』と題して、北海道の二十六万坪の最上牧場を有し、札幌にホテルを建て、中央競馬の馬主資格を有しサラブレッドを含む百二十頭の競走馬を持っていたが今は名馬にカイバも与えず・・・
等が書かれていた。
『週刊朝日』四月二十九日号には 『地上げの帝王・早坂太吉が語る』 と題して“富士フイルムの専務殺人事件の犯人”との容疑をかけられた事は『濡れ衣』 言葉を荒らげて反論していた怪物。 そして絶頂期には西新宿の千五百坪の地上げを成功させ産業廃棄物処理場計画の誤算などが書かれ、悪徳金融の悪計に乗せられた様子や『田村電機』の株式売買で大損した事などが書かれていた。やはり岩田の株式売買はダミーが本当だったのか・・・
。
賠償責任
こんな最中に二度の入金は本当の悪党だったら届ける筈はないと思う。岩田から『早坂の方で今ちょっとしたトラブルがありしばらく入金が出来ないかも知れない==』と連絡が来た。一抹の不安と期待をかけながら、次の続く入金を兎も角月末まで待ってみたがやはり入金は途絶え、岩田は『会長（早坂太吉氏）が何かの容疑で警視庁に拘束されたらしく連絡が取れなくなった』と言うのである。
現時点でいつの間にか岩田の責任を早坂に回避した事を責めるより当初から岩田との取引ならば岩田に責任を持たせ請求続ける一方、会社からは羽黒産業の岩田と岩田に代わって就任した駒社長に内容証明の督促状を送付したが何故か両方とも返送されて来てしまった。 此処に至って損金回収は不可と断じた会社側は担当者責任追求に転じて来た。
歩合外務員は固定給の一般社員と違い、会社との雇用契約は身元保証金を入れ、有価証券の売買高に応じて、支払い規定に基づき報酬を受ける社員であると同時に、税務上は立派な事業主である。入社に際しては『契約書』を取り交わし、別に定める『誓約書』を差入れ、連帯責任の保証人を必ず差入れる事になっている。
『契約書』第十二条「乙（使用人）は故意または過失その他自己の責任に帰すべき事由により損害を与えたときは、これを賠償しなければならない。 同十三条「乙は甲（会社）が別に定める身元保証金規定に従い所定の身元保証金を甲に提供しなければならない。 二、甲は乙により損害を被った場合身元保証金を損害の補填に充てる（要趣）。
同十四条「乙は契約または契約更新するとき別に定めるところにしたがい保証人二名の連署による身元保証証書を甲に提出しなければならない(要趣)旨の契約書と『誓約書』には顧客との間に生じた紛争はすべて私の責任において解決し、またそのために生じた損害は私並びに身元保証人連帯して弁済の責を負い会社には一切ご迷惑はかけません・・・
と・・・ 。
更に不注意等の損害も本人並びに身元保証人連帯して弁済する旨の誓約を署名捺印して差入れ、
更に身元保証人からは印鑑証明書をつけた連帯保証人の責任を明記した書類に署名捺印し提出している。
重ねて 『業務規則第二十二条』 にも「外務員は故意または過失により会社に損害をおよぼしたときは、本人および身元保証人が連帯して責任を負いこれを賠償しなければならない」と責任所在は明確に規定されている。
羽黒産業の取引注文状況は法令を満たした取引で、法令違反の事実はなく、損失発生後の対応も必死の努力を重ね、想像以上の株価の大暴落に遭遇し痛手を受けた相手側から数度の資金を回収したが損失金の全額は未解決に成って仕舞った。
小生には故意の違反事実は抵触せず罰則処分の適用はない。
されど万が一にも将来にわたって損害が発生したままの場合の責任として、まず解決の努力をする旨の念書に『若し債務が発生した場合その責任を負います』（平成四年八月十七日）と書いて提出し、問題解決計画書（同年十月十三日）には立替金（損金）回収に邁進する決意と、会社にも回収の為の応援を願い出て、最終的な損害に対しては自社株（保護口座入庫中）・足立区千住の土地一筆・次男所有の上物家屋・妻の持ち株・身元保証積立金全額。
此れ等を担当者責任の一部として提供し、損金に充当補う誓約の書類を提出していたので、既に損金は内容証明書にて請求書（平成四年十二月十日）を発送し、其の後、二回（平成五年二月・三月）入金があったものの以後入金は止まった為、再び入金が有るまでは歩合給の三十パーセントを損害金に充当する事を話し合いの結果、承諾し、不動産処分は来年一月を期限とした嘆願書を提出（五月十一日）した。(平成三年九月、口座開設から約六カ月、僅か数十回の売買取引で、羽黒産業の為に、昭和26年から営々築いて来た、兜町生活の地盤を狂わせられてしまった)。
平成六年に入り倍償責任担保として既に売却の意思表示を示していた物件（息子家屋含）の買い手を見つけ、バブル期なら此れで全ては解決の筈だったが、三分の一でしか売却（平成六年八月八日）できず、小生の自社株と家内の持ち株全てを損害金の一部返済として換金した。此処に担当者賠償責任の一部を実行に移した訳だ。それでも全面解決に至らず相変わらず水揚げ（歩合給）の三十パーセントは毎月きちんと天引きして貰らい、将来にわたって担当者責任を弁済して行く事を誓い、此れを契機に市況の悪化も手伝い商い減少から営業成績はふるわずノルマ不達成を理由に契約解除（在勤六名中四名）で平成十年六月退職し、退職後の現在も僅かながらであるが担当者の責任として毎月弁済し続けている。直接損出を出した羽黒産業の関係者は全く支払い能力喪失からか、
一切音信は途絶えたままで・・・ 。
裏切り
話は前後するが羽黒の担保不足で資金が入らなくなった時、
義兄弟の契りを結び心の底から信じていたＳ男に此の話しをし、過去の経緯と担保不足の状況の残玉一覧表の資料を渡し、期日の近き事を話し、
苦悩の心境を語ると、彼は同情はしてくれたものの 『大変だね、頑張って・・・』 の言葉の意味は考えず別れた翌日、彼は密かに田村電機を売り叩いていた。
本人は 『売っていない==』 と言うが同社の別の友人から 『間違いなく売っている==』 と正確な報告が入って来ている。 “
嗚呼 " 人間の付き合いはこんなもの・・・ 何の疑いせず気休めながら話した相手が 『金儲けの絶好のチャンス』 に見えたに違いない。
千軍万馬の武将に交じって修羅場をかいくぐり、曾て騙され苦汁をなめさせた亡霊が未だに彼に乗り映っていたのか・・・。 親友（小生のこと）の苦悩を裏切る罪の意識は微塵も彼は表さず潰しにかかってきた凄腕（ゲス）男・・・。 恐らく何のためらいもなく裏をかき勝負に勝つ為に先を越し、売って来たのだ・・・
。
こちら（小生）は厭が応でも信用取引の期日がくれば、すでに乗り換えは出来ず期日分は絶対に売らねばならない！ それを凄腕（ゲス）男は充分承知している。 当然の如く売りに出し321円まで叩き売り、株価を一段と下げ自分の首を絞めるが如く最安値を付けてしまった。
この安値で叩き売った所を凄腕（ゲス）男は難なくケツ入れ（買戻し）して大金を手中にしていたのだ！・・・。
此れが貪欲渦巻く修羅場（相場）の世界・・・ わかっていながら・・・ 君(小生）『甘いよ==』 と此の経緯を知る外務員協会の水谷会長から笑われてしまった。
無二の親友と自賛していた小生のことを、丙利（へいり）のごとく裏切る欲望の塊と化し、手段を選ばぬＳ男の咎めは必ず 『因果応報』 後に現れて来るものだ。
山一証券の武将
平成九年十一月三日、 満六十三歳を迎えた小生の誕生日に孫たちに囲まれ食事の最中にテレビの字幕に『三洋証券会社更生法の適用を申請』と流れた時の驚きは既に予期し薄々どこかに吸収されるか、
銀行の支援があるのではないかと、淡い期待をかけ三洋証券の株価の安値を拾っていただけに其の時は空しい気持が胸を刺し、やる瀬ない雰囲気に包まれた。
その余韻が冷めぬ平成九年十一月二十四日、ここだけは絶対大丈夫==絶対潰れない==いや潰させない==と信じていただけに『山一証券の自主廃業』の報はキツネにつままれた気分であった。名門『山一証券』は遂に死んでしまったのだ。三洋証券のショックの其の百倍を上回るショックであった。兜町に激震が襲った。わずか数日前までは必ず蘇生する『自主廃業』など“絶対無い”と固く信じていただけに唯唖然としてしまった。
十一月六日の引け値は二百〇五円。七日は百七十三円。十四日（金曜日）は百二十一円に寄り付き、後場は九十六円の安値を付け百円引け。週明け十七日（月曜日）『サンデー毎日』が“山一絶対絶命”と報道されても株価は変わらずにいた。此の株価の変化の陰には再建計画を携え富士銀行の協力依頼の奮闘や、大蔵省の長野証券局長に様々な交渉事を繰り返し、応援態勢が整うかに見えていた時期で、再建のシナリオを練って居た時だった。ご丁寧にも広報室から『
当社の株価について 』 として 「一部の投機的な動きもあり当社株は一時百円を割り込んだが、当社の自己資本率は二十四パーセント（九月末）で、内外の資金繰り状況についても問題なく又、市場に流れているような噂は全く根拠のないものである==（14日）とのコメントガ発表された。然し頼みの綱の長野証券局長が十九日（水曜日）終に『いろいろ検討の結果、自主廃業を選択して貰いたい』と社長に決断を迫ったのだった。
株価は見る見る下落し、額面すれすれ五十八円に成って仕舞った。それでも多くの人達を含めて直近の関係者まで再生を最後まで信じ、期待し、愛社精神強き従業員は借金迄して自社株を買い支えていた。
その期待は見事に裏切られ、十一月二十四日で『山一百年の歴史』の幕は完全に降りてしまったのだ。
明治三十年、甲府に生まれた『小池国三』が生糸の仲買で働き覚えた相場の魅力を、兜町で小池国三商店（山一証券の創業）を旗揚げし、日露戦争後のブームで不動の地位を築き、“モリを一本打たれたクジラ”に譬え、株式暴落を的中させ本格的な資本主義経済の偉業をなした武将
（慶応2年生まれ59歳没) はきつと紅の涙を流したに違いない。
小池国三商店から小池合資会社に社名変更し、杉野喜精を迎え此処でも戦争景気に乗り千軍万馬の武将に交じり『腹八分の哲学』で全てを杉野に託し設立資金を出し引退し、杉野によって『山一合資会社』を発足させた。杉野の哲学は==流れに逆らわず==無担保の借金はしない事==徹底した利回り主義。
此の三点を守り続け、兜町中楽天的なムードみなぎる時『株式警戒の要あり』と株式の供給過剰で需給関係の破綻が来ると警鐘をならし、昭和初期の恐慌時代の厳しい荒波を乗り越え、取引所の理事長に就任し、常務だった帝国大学法学部卒業の太田収にバトンを渡した武将（明治3年生まれ70歳没)も悔し涙で見ていた事だろう。
二代目から三代目にバトンタッチした太田収社長の戦略は鐘紡新株の三倍増資の噂を捕らえ疾風の勢いで買い捲り『学歴で相場は張れない==』と売り向かった輩の裏をかき大口投資家に玉をはめ込み大勝利をした武将だったが、日中戦争勃発と同時に鐘紡株の大暴落で決定的な大損は辞任に追い込まれ後任社長に平岡伝章副社長が就任したが、直後に太田収（明治23年生まれ48歳没)
は自宅で劇的な遺書を残し服毒自殺の最期を閉じたが人は死んでも会社の死を見たらどんな気持ちになっただろうか。
（帝国大学法学部の大田収社長）
四代目平岡伝章も明37年５月に社長に就任し12月には辞任し、 木下茂が五代目社長に就任した。やっと創業時の堅実主義の山一経営が此処で蘇って来た。
昭和五年の昭和恐慌、 六年の満州事変から激動の証券業界にも金融団体統制令
(昭和17年4月)金融事業整備令(同５月)が公布され、 政府はいつでも金融機関の合併命令を発令可能になった。
此の時は既に裏で山一証券・小池証券の話し合いが行われ、待ってましたとばかり合併を発表(同年７月８日)し、此処に初めて 『山一証券株式会社』 が誕生し、小池厚之助が社長に就任したのだ。
（天下の山一證券に育て上げた名声高い小池厚之助社長）
途中立会停止に見舞われながら玉音放送直後にミカン箱の上に立ち再建の決意を述べた不屈の社長も 『戦いに敗れたが、滅亡を意味するものでない。 日本再建のため茨の道を切り開き大なる努力を傾けなくてはならない。
証券市場が無用になることは決してない。陣営を立て直し新しい門出に万全な方策を至急研究確立せん・・・』 と号令を発し、専務の大神一を委員長として山一並びに証券業界発展の絆を動かす原動力となった業界一の本陣の総合武将だった。 此の武将だって 会社の滅亡など言語道断 と怒りを発したのではないだろうか。 昭和二十三年四月に証券取引法が公布され五月施行は、銀行が証券業の兼業を禁じた規定が六十五条に盛り込まれ画期的なものだった。 いよいよ三年九ヶ月ぶりの立合いは開始（昭和二十四年五月十六日）され、涙ぐましい小池社長の努力は永遠に兜町の歴史を飾っている。
再開日の日経平均株価は百七十六円で、インフレ鎮圧政策（ドツジライン）実施で翌年は八十五円と半値近くに下落したが、山一証券は経営の合理化・近代化の推進は常に業界一を走り躍進は不動の地位を築いていった。そして昭和二十九年、副社長の大神一にバトンタッチした。
大神 一（はじめ）社長
（武将の中の武将と高名を残した社長）
登場した大神社長は明治三十年、長崎県生まれの帝国大学経済学部卒業(大正10年)し直ちに山一合資会社に入社し、
太田収社長(当時)の片腕で剛腕を発揮し、 一種独特のカリスマ的存在の持ち主で此れ又兜町の大物相場師だつた。 『神武景気』(昭29・11〜32・6月) 『岩戸景気』
(昭33・6〜36・12月)の高度成長期に乗り稼ぎ捲った。
“貧乏人は麦を食え” の池田隼人内閣 『国民所得倍増計画』 に乗ったのだ。 日経平均は三百十四円（昭29・３)
から一千八百二十九(36・７)の上昇は小生の場立ち時代から営業所長になった時期で足元には及ばないガキの活躍期でもあった。
雲の上の存在は戦時中の天皇陛下の雰囲気を漂わせていた。 されども柔道の関係で正会員協会の金原先生の指示で、
小池厚之助会長 (当時柔道名誉六段) の所え伺った時、 直立不動でご挨拶したことがあり、
貫禄に圧倒された事が有った。 小池会長とは柔道の関係で良くお会いし、 柔道を頑張れ==
と声をかけて戴きご一緒にお酒を戴いたことは何回も有った。
余談はさておき歴代の社長は皆山一証券に命を捧げ国のため業界のため尽くした人々の悲しみは草葉の陰から恨んでいるのではないか。以後の社長は兜町の武将として語るには失礼にあたり省略するが、何れにしても山一証券の歴史は創業百周年（平成九年四月十五日）の輝かしい歴史が綴られて来た。
嗚呼・・・ それが負債総額三兆五千億円 (野沢正平社長）によって 『みんな私が悪いんです・・・ 』 と涙を流し謝罪しながら山一證券の歴史が幕を閉じた事、さぞかし歴代の社長を始め従業員や其の家族や多くの関係者の無念の恨みはいかばかりか・・・考えるとゾーとする。
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